行きつけのホールやTwitterで、普通の入れ替え告知とは違う、ちょっと捻ったポスターを見かけること、ありませんか? あきらかにメーカーが配布しているものとは異なる雰囲気のやつです。そんなポスターが一体どうやって作られているのか、気になったP-Summa編集部員。
調べてみたところ「デザイン定期便」という、まさしく! なサービスを発見。なにがきっかけで生まれたサービスなのか? どんな風にデザインしているのか? 詳しく聞いてみたいと思い、運営されている株式会社プラスアルファに取材を申し込んでみたところ、快くOKしてくださいました!
ということで、調査研修事業部の野島崇範さんと営業部の中島郁也さんにオンラインでお話を伺います。
――本日はよろしくお願い致します! 早速ですが、デザイン定期便は、どのようなことがきっかけで生まれたサービスですか?
中島:弊社では広告代理店にパチンコに関するプロモーション研修をしていたんですが、代理店がプロモーションのノウハウをわかっていてもホールに落とし込むのが難しかったり、一方でホールがノウハウをわかっていてもアウトプットが難しかったりして、「参考になるデザインが欲しい」と言われたのがきっかけです。そのような経緯で、2015年にサービスをスタートしました。
――現在、何店舗くらいのホールがこちらのサービスを利用されていますか?
中島:625店舗のホール様にご利用いただいています。地域は関東と東海、関西が多いですね。
――では、ホール関係者からはどんな反響をいただいていますか?
中島:「今まではポスターで継続率や出玉率を伝えるのが正解だと思っていたが、地域二番手以降では間違いであることに気付いた」とか、「デザインを学ぶうえでの教育ツールになる」といったお声をいただいています。配信しているデザインをそのままポスターとして使うのではなく、自作する際の参考にされているところもあるようです。
また、機種のコンテンツや演出を取り上げてデザインしているので、お客様から「ジャグラーで『ねこふんじゃった』出たよ!」のような声掛けも生まれたそうです。
友人から連絡がきた。パチンコ店が再開したので久しぶりに打ちに行ってTwitterに投稿したら、友人からかなり批判された!と。好きなことしたらダメなのか?改めてパチンコ店はクラスター発生していない。対策もしている。https://t.co/ic0AF3RVgC友人の話を元にデザイン。好き嫌いが全員一緒なら僕は… pic.twitter.com/U7zfzOIidU
— 野島崇範〔売り場の広告すごいぜ!〕 (@nojima0903) May 17, 2020
――継続率や出玉率といった「数字」を伝えるのは正解ではないんですか?
野島:そうですね。正確に伝えると、地域1番店では正解なんですが、地域2番店以降は不正解ですね。継続率や出玉率を伝えることが正しいとなぜか思い込んじゃっているのが今のパチンコ店です。しかし、地域2番店以降は、非常に放出する遊技台だ! と煽っているのに景品金額や客数が見えなければ、お客様の不信感を生むきっかけとなります。
――そういえば、2018年から広告宣伝規制が厳しくなりましたよね。それもあって、数字を使って煽るよりコンテンツや演出を打ち出す方法にシフトした、という感じでしょうか?
野島:まさに! 2015年頃のデザイン定期便では『北斗無双』で「2400個!」のような打ち出し方をしていましたね。その当時は、お客様の体感を得られたから、これが正解でした。ところが、パチンコの内規変更により、その体感が得られづらくなり、数字で煽ってもあまり集客に繋がらない状況となったわけです。そこで、2018年あたりから消費行動の原理原則である「AIDMAの法則」に立ち返りました。
――あ、アイドマのほーそく?
AIDMAの法則とは、消費者が商品などのモノを認知して、そこから実際に購入につながるまでの「消費活動」の仮説です。
AIDMAの法則が示す「消費者の購買行動」には段階プロセスがあります。
まったく知らないものや興味のないものを、消費者は購買しないですよね。「注目する→興味を持つ→欲しいと感じる→記憶する→購入する」というプロセスを踏むのが消費活動の法則です。
野島:とにかく注目されなければ消費行動、つまりホールで言うところの増客に繋がりません。過去、イベント時代は設定5・設置6というPOPが店舗に掲示されていたため、お客様はホール内で能動的に情報を取りに来ていましたが、今はそのような射幸性を激しく高めたポスターやPOPは一切掲示できないため、「お客様はポスターなど見ない」ということを前提にデザインしています。また、先程の話に戻りますが、数字を打ち出す新台デザインはどの店舗でも見えるようになったため、注目を集めることが難しくなりました。
――では、数字を押し出さないデザインは、どのように作られているのでしょうか?
野島:たとえば、漫画やアニメとのタイアップ機は原作の名場面が演出でよく使われています。なので、アニメを全話視聴するなど、時間をかけてユーザー様に何が刺さるか調査し、デザインをするわけです。原作ファンの方に「わかっているね、この店」と思っていただけるようなものを目指しています。
――確かに、「わかっている」広告を見るとユーザーとしては嬉しくなりますね!
野島:それともう一つ、「オドボール課題」の理論を基にデザインしています。簡単に言うと「まったく新しいものからしか脳は刺激を受けない」というデータが出てしまったんです。今までは「同じ内容でも、色を変えればいい」等と考えていたんですが、違ったんです。
そこで最近は、漫画家の藤波俊彦先生や、YouTubeやTwitterで有名なショコラ大佐とコラボするなどして、今までにないまったく新しいものを著作権に反しない方法で作ろうとしています。
藤波先生にお願いした『ぱちんこ 仮面ライダー 轟音』のデザインについては、動画でも解説していますのでぜひご覧ください。
――確かに藤波先生やショコラ大佐の絵がホールにあったら思わず見てしまいますね。
野島:藤波先生には今、『凱旋』の撤去プロモーションデザインをお願いしています。非常にお忙しい方なので、いつもご無理を申し上げています。
――他に、デザインをする上でこだわっていることはありますか?
野島:「お客様が通り過ぎる場所」と「滞在する場所」、それぞれの設置場所に応じてデザインのメッセージ量を変えています。通り過ぎる場所に30文字以上の情報を入れて、果たして読まれるかということですね。
――WEBを拝見した際、「デザインはカッコ良さを求めてもダメ」というメッセージが印象的でした。
野島:「カッコイイ」って、一番抽象的な概念だと思うんですよ。人それぞれ「カッコイイ」の基準が違いますから、そこで店舗内で意見が分かれて、お客様に伝わるか伝わらないかを話すことなく、意見が分かれたまま校了日を向かえて、よくわからないまま校了してしまうケースが多いんです。
注目を集めるのは、「カッコイイ」ではなく「今までにない」プロモーションです。7、8年前ですが、大学の生協が商品の誤発注を、Twitterで正直に告白して話題になっていました。多くの方に拡散されてすぐに完売していましたね。それは「今までにない」方法だからだと思います。それから、誤発注POPを他の店舗でも見受けるようになりましたが、完売には至りません。なぜなら、目新しさは既に失われたからです。弊社も今までになく、それでいて「熱さ」が伝わるような、増客に繋がるデザインを心掛けています。日々、過去に生み出したデザインとの戦いです(笑)。新しさを求めるためには、生み出したデザインを否定することから始まります。
――ホールの広告と言えば、コロナ禍の前後でデザインの方向性は変わりましたか?
野島:変わりましたね。「マズローの法則」はご存知ですか?
――え? あ、はい、聞いたことは、あります……。
マズローの法則とは、人間の欲求は5段階のピラミッドのように構成されているとする心理学理論です。アメリカの心理学者、アブラハム・マズロー(1908~1970)が考案したもので、「マズローの欲求五段階説」「自己実現理論」などと呼ばれることもあります。
マズローの法則によれば、人間の欲求には「生理的欲求」「安全の欲求」「社会的欲求(所属と愛の欲求)」「承認欲求」「自己実現の欲求」の5段階があります(個々の詳細は後述)。そして、これら5つの欲求にはピラミッド状の序列があり、低次の欲求が満たされるごとに、もう1つ上の欲求をもつようになるのです。
野島:コロナ禍によって、今の欲求が「安全を満たしたい」という段階のユーザー様が増えたと考えています。なので、弊社も安全を満たすという観点でのプロモーション中心にシフトしました。
他にも、接触を減らすために「貯玉で予防」というテーマのポスターを作りました。ご利用になったホールでは今まで貯玉に興味をお持ちでなかった高齢のユーザー様が貯玉を始めてくださったそうです。
――今までで一番反響があったデザインはどんなものですか?
野島:最も多くダウンロードされたのは、ジャグラーの設置延長をお知らせするスポーツ新聞風の速報です。決まった瞬間にすぐ作ったので、タイムリーで需要があったんでしょうね。
「営業再開」のプロモーションも大きな反響をいただきました。機種と関係のないポスターにここまでのニーズがあるとは思いませんでしたね。
投票ありがとうございました!前回は4日間の投票期間でしたが、今回は1日で締め切らせて頂きます。
こちらのデータは下記からダウンロードください。ダウンロード期限は7日間なので、お早めにお願いします^ ^https://t.co/1plmeGv7PY
皆さんの意見が聞けて、楽しい取り組みとなりました^ ^ https://t.co/WJcIJ9FnPw pic.twitter.com/6IPvuwhIIn
— 野島崇範〔売り場の広告すごいぜ!〕 (@nojima0903) May 1, 2020
――業界のニュースやホールの様子を常にチェックしているんですね。
野島:基本的に納品が8000台以上の機種しか新台のポスターは作らないんですが、P-WORLDのアクセスランキングやホールコンピュータのデータを見て、需要がありそうな機種は8000台以下でも急遽作ることがあります。最近はパチスロよりパチンコのほうが調子良さそうなので、8000台以下でも視野に入れるようにしています。
プロモーションにおいては飽きないように高頻度で変えていくということが非常に重要です。『リゼロ』が大ヒットして増産を繰り返した頃は、『リゼロ』のポスターデザインを何パターンも作り続けました。
――では、今までで一番多くのデザインを作ったのはどの機種ですか?
野島:『リゼロ』や『北斗無双』、『シンフォギア』もかなり多かったですが、一番となるとやはり『海物語』か『ジャグラー』でしょうね。ちなみに、現在作っているポスターの内訳は、新台が5割、海物語やジャグラーなどの定番機種が3割、その他(貯玉のおすすめ等)が2割といったところです。
――定番機種こそ同じようなポスターになりがちですから、目新しさが重要になるでしょうね。本日はありがとうございました!
さまざまな研究論文に基づいて斬新なプロモーションを打ち出しているデザイン定期便。皆様もいくつかのホールを巡る際、ポスターを見比べてみてはいかがでしょうか? 新たな発見があるかもしれません!
P-Summa編集部