【取材】業界最大規模! 茨城県遊協がコロナワクチンの職域接種を実施した理由とは?

2021/09/29

特集

  • ikcw00
    コロナ禍を収束させるための決め手の一つとされるワクチン接種。地域の負担を軽減するため、企業や大学等の単位で「職域接種」も行われています。皆さんの中にもすでに職域で打たれた方がいらっしゃるかもしれません。パチンコ業界では9月中旬、大阪のホール「フリーダム」が自店を会場にして近隣の商店街組合員や住民を対象に職域接種を行い、大きな話題に。

    さらに、茨城県の遊技業協同組合(通称:茨城県遊協)も、遊技業組合として初めて職域接種を実施。その規模は4000人と業界でも最大規模となっています。当初は「パチンコ業界の従事者とその家族」が対象でしたが、後に「茨城県に在住または通勤通学されている方」に拡大され、大勢の方から感謝の声が寄せられました。

    ワクチンをめぐる混乱や副反応に関しては、ニュースやSNSでよく見かけますが、職域接種の裏側はあまりご存知ない方も多いのではないでしょうか? そこで、茨城県遊協が職域接種を実施した経緯とそこに込められた思いについて、副理事長 兼 青年部会長の李晃明さんにオンラインでお話を伺いました。

    茨城県遊協が職域接種を実施した経緯


    ――本日はよろしくお願いします。まず、遊技業組合とはどんな組織で、普段はどのような活動をされているのでしょうか?

    平たく言うと「県内で営業しているホールの組合」で、全国47都道府県に一つずつあります。最近では依存症対策として「安心パチンコ・パチスロアドバイザー」を各ホールに配置したり、福祉協議会や防犯協会に寄付をしたりしました。

    ――世間ではあまり知られていませんが、パチンコ業界のCSR活動ってかなり大規模ですよね。

    そうですね。業界全体で、昨年は約10億円分の社会貢献活動を行いました。遊協がまとめ役になることで、小規模なホールも活動に参加することができるわけです。他には、紙やインクを共同購入して経費を抑えたり、毎年のファン感謝デーの窓口になったりと……色々ですね。

    ――そのような活動をされているなかで、職域接種を実施しようと思ったきっかけはなんだったんですか?

    今年の6月に、職域接種を実施する企業や団体の募集が始まった、というニュースを見たのがきっかけでした。条件を調べたところ、
    ①会場や医師を自分たちで用意すること
    ②1000人以上の規模であること
    だったので、これはパチンコホール単体では難しいな……と思っていたんですが、「温泉の組合が職域接種を実施している」という情報を得て、遊協でなら可能だと考えました。6月中旬には執行部に提案して、準備を始めていましたね。

    ――お医者さんのツテはあったんですか?

    いえ、何もなかったので大変だったんですよ。普段は訪問診療をやっている県内の会社が「職域接種に医師を派遣します」というプレスリリースを出していたのですが、気付いた時には締め切りが過ぎていて……。ダメもとで相談したところ、派遣していただけることになって、本当にありがたかったです。その会社に連絡を入れた直後、「明後日には職域接種の申し込みを締め切る」という通知が来ましたから、まさにギリギリセーフでした。

    ――苦労が多かったんですね。会社が申し込んで、ワクチン受け取って打つだけ……という認識の方も多いと思います。

    お医者様を呼ぶ費用も会場費も自己負担ですからね。他県の遊協でも職域接種の準備を進めているところがありましたが、条件が合わず実現しなかったようです。私たちがやれたのも偶然によるところが大きいと思っています。

    ――自己負担というと……。

    詳しくは言えませんが、理事会から大目玉を食らうレベルです(笑)。ですが、組合として、ホールで接客に当たっているスタッフの安全確保は必要なことだと思っていました。それはスタッフのためでもありますし、お客様に安心して遊んでいただくためでもあります。準備中に波乱が多くて、「中止しよう」という意見が何度も出たんですが、最終的には決行ということでまとまりました。雲行きが怪しくなった時に理事長が「責任はこちらが持つからやり遂げろ」と言ってくれて、絶対に実施しようと思いましたね。

    ――裏でそんな熱いエピソードがあったんですね……!

    パチンコ業界人向けから一般開放へ


    ――職域接種は申請の際に人数を申告するんですよね。4000人分という数字はどのように出されましたか?

    まず、茨城県内には220ほどのホールがあります。1店舗あたりのスタッフが15人として、220×15=3300人。県の平均世帯人数が2.5人なので、3300×2.5=8250人。そして、職域接種に関するアンケートを取ったところ、受けたいと回答した方がおよそ60%だったので、8250×0.6=約5000人。その時点ですでに高齢者への接種は始まっていたので、少し少なめに見積もって4000人分と計算しました。

    ――実施は今月(2021年9月)でしたが、当初はもっと早く実施するはずだったそうですね?

    7月21日スタートのスケジュールでした。ところがワクチンの供給が大幅に遅れ、8月に入った時点でもいつ届くのか連絡すらないという状況だったんです。それで、「予定より遅れていますが接種を希望しますか」と改めてアンケートを取ったところ、大幅に余ってしまうことがわかり、「パチンコ業界の従事者とその家族」という条件を外して、「茨城県に在住または通勤通学されている方」にも対象を拡げました。

    ――ただ、そうしたところで売上が出るわけじゃないですし、実施側の負担が増えるだけですよね。なぜ対象者を広げようと思ったんですか?

    職域接種の準備を進めるなかで、若い方を中心にまだ接種できていない方が大勢いることを再認識しました。元々はパチンコ業界の取り組みとして始めましたが、場所もワクチンも用意できたので、地域への貢献もできれば良いな、と。

    ――採算度外視で労力をかけてまでそんな決断をされたとは……頭が下がる思いでいっぱいです。では、職域接種の対象を拡大したという話はどうやって周知したのでしょうか?

    まず、業界の方に向けてはSNSでアピールしたり、PAA(一般社団法人ぱちんこ広告協議会)を通じて、業界ニュースに載せてもらったりしました。ライター・演者の方も陽性になったという事例をしばしば見ていたので、接種がまだならぜひ打ってほしいなと。

    ――茨城県に住んでいる方々に対しては?

    県に働きかけて、感染症対策課「新型コロナウイルスワクチン接種チーム」のページに予約サイトのリンクを貼ってもらいました。でも、それだけではなかなか気付いてもらえませんから、県の方から教育委員会経由で、県内の児童・生徒の保護者様にメールを回していただきました。その成果でしょうか、当日は親子連れの方々が非常に多かったです。

    ――学生さんでも早く打ちたいって方は大勢いたんですね!

    10月11日(月)から17日(日)の接種期間にも新規の予約を受け付けていますので、職域接種を希望される方は予約サイトにアクセスいただければと思います。

    職域接種の反響と込められた思いとは?


    ――反響はいかがでしたか?

    職域接種の予約サイトでは、多方面からたくさんの感謝のお言葉をいただきました。当初の目的である業界関係者への接種も促進できましたし、やって良かったと思っています。我々はサービス業ですから、土日出勤や退勤時間が遅い人間も多いので、丸々1週間という長めの期間を設定し、夜の20時まで予約を受け付けました。この形にすることで、「会社全体でシフトを回しながら打てた」というところも多かったようです。

    ――予約サイトには100件以上のレビューが書かれていますね。皆さん「打てるところがなかったので助かった」とか「スムーズだった」とコメントしていて、とても感謝されていることが分かります。

    自分自身が6月に職域接種を受けていたので、どういった規模・配置・システムにすればどのぐらいの時間で何人程度接種できるか、あらかじめ検討はついていました。ただ、集団接種って医師だけでなく、事務スタッフもかなり大変で、一種の特殊能力が必要なんですよ。今回は職域接種を何ヶ所も渡り歩いている熟練のスタッフ陣に来ていただきました。

    ――他に苦労されたことはありますか?

    一番は医師と会場の確保でしたが、ワクチン供給に関する連絡が色々なところから来たのは戸惑いました。昨日厚生労働省から来たと思ったら今日は警察庁から電話がかかってきて……監督している官庁が多岐に渡っているんですね。でも、バタバタしている中、どこもよくやっていると思います。個人的には、実施した1週間は自宅に帰れず、会場近くの実家に泊まっていました。

    ――本当にお疲れ様です……!

    接種が始まってからも広報活動をしていましたからね。1週間振りに自宅に帰って体重を測ったら4kgも落ちていました(笑)。

    ――報酬もないのに、そんな苦労をしてまでやり切る根底には何があったんでしょうか?

    こんなに優先順位の高いことって滅多にないんですよ。組合として毎年、協賛や寄付をやっていますし、コロナ対策も万全にしていますけど、その中でもワクチンの接種って早急に、絶対にやるべきことなので、信念をもってやりました。

    ――去年の4月から5月頃、世間からのパチンコ業界へのバッシングは凄まじいものがありましたからね……。

    実は準備の過程で、当時パチンコ業界を批判されていた議員の方とも話したんですけど、今回は「いいね!」と応援してくれました。それに、茨城県知事にもご協力いただいて、感謝に堪えません。あの一連のバッシングって、外部とのコミュニケーションがうまく取れず、社会から浮いてしまっていたせいだと思うんです。しっかり地元に根付いて、普段からコミュニケーションを取っていれば、ああいったことは避けられたのではないかな……と。

    ――今回の職域接種などを通じて、偏見とも言えるパチンコ業界へのイメージが改善されて欲しいです。本日はお疲れのところ本当にありがとうございました!

     

    強い意志のもと、遊技業組合では初めてとなる職域接種を実施した茨城県遊協。李さんのような業界人の方々の努力は、普段パチンコを打たれない方にもぜひ知ってほしいと感じました。感謝の気持ちを忘れずに、1ユーザーとしても、引き続き感染防止に努めていきたいと思います。

    P-Summa編集部

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