【取材】業界復活のカギはインバウンド!?外国人向けパチンコツアーの真意とは?

2024/08/14

特集

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    300万人以上が訪れる月もあるという訪日外国人観光客。パチンコ業界も多言語パンフレットを作るなど呼び込みを試みていますが、大きな成果が出ているとは言い難い状況です。そのような状況のなか、「外国人向けのパチンコツアー」が催されていることを知ったP-Summa編集部員。調べてみると、英語でレクチャーしながらパチンコやパチスロを体験してもらうというもので、Global Pachinko株式会社の代表・長北さんが手掛けているそうです。この試みのきっかけや手応えを長北さんに聞いていくと、より壮大な構想へのステップであったことがわかってきました……!

    外国人向けパチンコツアーを開催! 長北さんのこれまでの道のり


    ――本日はよろしくお願いします。長北さんはもともとパチンコ業界の方ではなく、かなり異色の経歴をお持ちだそうですね。

    元々は日本カジノのオープンに合わせて関連業態に就職するため、シンガポールで3年ほど修行しようとしていました。ところがその話がこじれ、同時に日本カジノの雲行きも怪しくなってきたので、比較的スムーズに話がまとまったマレーシアのコールセンター管理職に就いたんですね。当初、コールセンターの仕事は1年程度のつもりだったのですが、今度はコロナ禍で3年も閉じ込められてしまって……。

    ――この段階で既にドラマティックな人生を歩まれていますね!

    そうこうしているうちに、日本のパチンコ業界が大ピンチという話を見聞きして、どうにかサポートしたいと会社を立ち上げたわけです。昔からパチンコ・パチスロはガッツリ打っていましたからね。

    ――一番打ち込んでいたのは、機種でいうとどのあたりですか?

    4号機の「初代北斗」から5号機後期あたりです。よく打ったのはミリオンゴッドの「神々の系譜」や「バジ絆」……でもどちらかというと、パチンコを打つことが多かったですね。「銭形平次」とか「AKB」、「北斗無双」などをよく打っていました。それで、パチンコで貯めたお金で1社目の会社を興しまして……。

    ――1社目の? 会社ですか!?

    ええ、ですがその会社は潰してしまって1200万の借金を抱えたんですけど、それもパチンコで全額返済しました。

    ――またドラマティックな……! ところで、海外でお仕事されてたってことは、語学が堪能ということでしょうか?

    3年間アメリカにいましたし、帰国後も海外向けの仕事が多かったので、英語は一通りできますね。それで、パチンコ業界を救うには外貨を取りにいくしかないと考え、「なぜ外国人はパチンコを遊んでくれないのか? どうすれば遊んでくれるのか?」という情報収集も兼ねて、2022年の10月からパチンコツアーを始めました。ただ、当時は業界との繋がりが何もなかったんですよ。たまたまパチ7さんが目をかけてくれて連載を書かせていただいたことから、今ではいろんな繋がりができました。

    ――おそらく前例のないツアーですよね。すんなり開始できましたか?

    なかなか難しかったですね。海外の旅行サイトにパチンコツアーの情報を掲載するわけですが、ギャンブル関係はNGだったり、個人ツアーが急に全面停止されたりもしました。ツアーのルールが固まると、当初は週に3〜4件ほど集客できて、そこそこの売り上げになっていたんですが、最近はライバルが増え過ぎて……。

    ――パチンコツアーのライバルですか?

    いえ、外国人向け個人ツアーです。2019年の時点でツアー業者は爆増していて、コロナ禍で鳴りを潜めていたのが、2022年に入って一気に目を覚ましたという感じですね。今はそこからさらに増えました。ガイドを何人も抱えている業者って、かつては数社しかなかったのですが、今では100社近くありますし、神社仏閣の近くに住んでいる方が個人でツアーを始めたりして、2022年6月時点と比べて今は1000倍ぐらいになっています。

    ――そんなに!

    国外業者も増えていますね。「日本在住の中国人ツアーガイドを管理している中国のツアー業者」みたいなものが山ほどあります。そういった競合の資本が強過ぎて、今は旅行サイトには広告を出していないんです。仮に広告を出す予算があっても、最低でも10人ぐらいのガイドを抱えて100件ぐらいの問い合わせを受けられるようにしないといけないんですが、パチンコツアーはガイドの育成が非常に難しいんです。

    ――では、その難しさを教えていただくためにも、次は実際のツアーの様子をお聞かせください!

    「Pバベル」と「シリウス」が人気!?外国人向けパチンコツアーの実態


    ――1回のパチンコツアーで何人ぐらいのお客さんを連れていくのですか?

    最大で11名様を相手にしたことがあるのですが、ちょっと忙し過ぎました。最大でも4~6名くらいが適正ですね。

    ――1対11は大変でしたね。では、ツアーはどのように始まるのでしょうか?

    所定の場所に来ていただいて、まず店の外で、
    ・パチンコはどういう遊びなのか
    ・いくらぐらいかかるのか
    ・ヘソに球を入れて当たりの抽選を引いて……
    といった概要を説明します。

    ――相手は何も知らないんですものね。

    それから入店し、空き台から見繕ってオススメします。最近は2時間コースで来られる方がほとんどなので、基本的には1円パチンコの甘デジから入ります。

    ――ホールには事前に相談しているんですか?

    いえ、契約してしまうと、目押しを手伝えなくなったり、教えられることに制限が加わったりしますからね。ホールとしてもわずか数人を2時間ほど連れてきてもらっても旨みはないでしょう。

    ――確かにそうですね。

    それで、実際に打ち始めたら、「当たりそう!」などと言って盛り上げつつ、表情をよく観察します。「パチンコを教えること」ではなく、短時間のツアーで「お客様の満足度を最大にすること」が目的ですからね。レートが低いと感じる人、1時間以上ハンドルを握るのが苦痛に感じる人など、いろいろな感じ方をする人がいますので、リアクションを見てタイミングよくパチスロに切り替える、4円に連れていくなど、臨機応変に対応していきます。

    ――語学力はもちろん、観察眼やコミュニケーション能力も必要ですね。

    当然、パチンコ・パチスロに精通していることも必須です。現行機種の知識が完璧に入っていないと適切な台選びができません。

    ――そんな人材、滅多にいなさそう……。ガイドの難しさがわかってきました。では、訪日客にウケがいいのはどんな機種ですか? やはりアニメ系とか?

    アニメ系の台はそれほどですね。日本のアニメが好きって方は、もちろん海外にもたくさんいらっしゃいますけど、オタクコンテンツ目当てで訪日される方って意外に少ないんですよ。アニメグッズはAmazonとかでいくらでも買えますしね。そもそもどのアニメがパチンコ化しているという情報を海外の方は持っていませんし、「このアニメの台を打ちたい!」と決まっている状態で入店することは99%ありません。

    ――そういうものだったんですね。

    パチンコでウケが良かったのは羽根モノとか一発台、特に「Pバベル」です。どこで楽しんだらいいのかがハッキリしてる台が喜ばれますね。

    ――すると、パチスロはシンプルにジャグラーですか?

    ジャグラーを打ちたがる方はあまりいらっしゃいません。ジャグラーって、ジャグ連とかゾーンとか、自分の中でストーリーを組み立てて楽しむものじゃないですか。パチスロ初体験の方にとって、ジャグラーはストーリー性がないんです。かと言って、ゲーム性が複雑過ぎても説明している時間がありません。たとえば「カバネリ」のフローを初心者の方に10分で説明できますか?

    ――いや~、厳しいですね。

    なので、シンプルかつストーリー性、ある程度のゲーム性のあるものが最適です。ウケが良かったのは6.5号機の「シリウス」ですね。

    ――超レア台! ボーナス後◯ゲームはチャンスっていうストーリー性が喜ばれるのはわかりますが、「沖ドキ」ではなく……?

    外国の方は沖ドキのチカチカに気付かないんですよ。

    ――それは盲点でした……!

    その点シリウスは派手ですからね。欧米の方に関して言うと、そもそもパチンコはちょっとウケが悪いです。「ピンボールの延長」だと思って来られる場合が多いんですよ。パチンコとピンボールはゲーム性が全然違うので、明らかに楽しんでないなって顔をされてしまうこともあります。そうなったら移動を考え始めるわけですが、見極めは一筋縄では行きませんね。

    パチンコ業界が抱える課題とは?


    ――パチンコツアーの反響はいかがですか?

    比較的、ご好評いただいているかと思います。お客様に不満などを言われたことはないですし、「面白かった!」とか「次回はもっと時間をとって遊びたい!」と言ってくれる方も複数いらっしゃいました。実際に再来訪された際、一人でパチンコを打ちに行った方もいるほどなんですよ。

    ――では、パチンコツアーを賑わせていけば、いずれはホールに訪れる訪日客も増えていくんですかね?

    数千人単位で動員できれば可能性はあるかもしれませんが、現状では同じレベルのインストラクターを集めるのが難しいため、パチンコツアーだけでは厳しいと考えています。ツアーは情報収集という面が強く、草の根的な活動なので、パチンコ業界を再興させるようなインバウンド対策になるとは思っていません。課題は山積みです。正直、これまでの業界の動きを見ていると、インバウンド対策はやっていなかったも同然でした。

    ――一応、多言語に対応した台も出ていましたが、まだまだ足りないと?

    実際にそのモードで打ったことはありますか? 「チェインクロニクル」や「BLOOD+」など、多少踏み込んだ翻訳の台もあるにはありましたが、ほとんどの台はごく一部しか翻訳されていません。そもそも、英語一つを取っても翻訳ができていないのに、中国語とか色々やろうとしても無理です。まずは一番簡単な英語からしっかり固めていくべきだと思いますね。
     


    ――アニメ台が目当ての方はほとんどいないとのことでしたが、セリフ演出が読めるだけでも違うものでしょうか?

    何を言っているのか全然わからないよりは格段に良いですよね。コンテンツに興味があるお客様がいても、読めなければ面白くありませんから。ただ、現状としては遊技機よりもホールの受け入れ態勢ができていないことが問題だと考えています。

    ――「パチンコの遊び方」みたいなパンフレットを多言語で用意しているホールもありますが……。

    それって、店内に遊び方の教科書だけが置いてある状態ですよね。たとえばタイ旅行に行って、店外のメニューやメッセージが全部タイ語の遊技施設に入ろうと思いますか?

    ――確かに、尻込みしますね。店内に日本語の説明書が置いてあるだろうとは思いもしないです。

    「WELCOME」の文字もなしに、訪日客をホールに呼び込むのは無理だと思います。

    ――そう言われると、確かに課題だらけですね……。ちなみに、インバウンド対策の中心となっていく地域はどういった所になるとお考えでしょうか。

    訪日客のゴールデンルートってご存知ですか?

    ――いえ、どんなものですか?

    初めて日本に来る方の動きって、だいたい決まっているんですよ。成田空港に降りたら、2日間ぐらいで東京(日暮里・浅草・秋葉原・銀座・新宿・渋谷)を回って、静岡に行って、大阪→京都……という感じです。

    ――ということは、それ以外の場所で見かける大勢の訪日客は……?

    2回目以降のベテランってことですね。リピーター率は8割とも言われています。

    ――そんなに!

    インバウンドの中心部として浅草や秋葉原が注目されがちですが、私はむしろ、岡山とか長野あたりのほうが伸びしろがあると感じています。考え方として、初めての日本旅行で貴重な時間をわざわざパチンコに使うでしょうか? もうメジャーどころは見飽きた訪日客のほうが興味を持ってくれやすいと思うんですよね。それと、本来中心になるべきはズバリ、東京での宿泊拠点となる日暮里です。日本って、夜に遊べるところが意外と少ないですからね。

    ――そういう視点はありませんでした。

    今までパチンコ業界は、パチンコ業界人ばかりで固まって、業界外からの人材や情報を集めようとしてこなかったんです。訪日客のビッグデータを毎日見て大きな流れをつかめるような人材が、あまり育っていないのかもしれないですね。

    ――他業種に優秀な人材はたくさんいると思いますが、生粋のパチンコ・パチスロプレイヤーという条件がつくと、相当絞られてしまうでしょうね。

    私みたいなのは突然変異だと思います(笑)。

    パチンコ業界再興のカギはインバウンド+a


    ――今後、パチンコツアーはどのようにされる予定でしょうか?

    情報収集元として貴重なので、今後も細々と続けていくつもりではありますが、弊社のメイン事業ではないため、拡充していく考えはありません。現在はパチンコツアーやリサーチから得られた知見を発信し、メーカー様やホール様と協力して施策を打っていくフェイズにいます。すでに「仕掛け」の用意は進めており、まずはサミー様がリリースされた『e北斗の拳10』の遊技説明パンフレットなどの英訳監修とデザイン草案を担当させていただきました。
     


    ――パチンコツアーの経験を活かされているんですね!

    あとは、クラウドファンディングを立ち上げて、ベテランプレイヤーが新規プレイヤーを支援できる形を作ろうかなと考えています。

    ――え……? 日本人の一般ベテランプレイヤーが、ホールで外国人に遊び方を教える、ということですか?

    本来はその動きが必要じゃないかと思うんですよね。
     


    ――ちょっと聞いただけだと、非常に難しそうに思えるんですが……。

    ホールで日常会話とか、ましてやビジネス会話をするわけじゃありません。トピックがパチンコだけならそんなに難易度は高くないんです。TOEIC400点(中学英語が身に付いているレベル)で充分だと思いますよ。

    ――言われてみれば、語学堪能な人にパチンコを覚えてもらうより、パチンコを打てる人に最低限の単語を覚えてもらうほうが簡単な気がしてきました。

    そうでしょう?(笑) いま、パチンコ業界はもとより、日本経済全体が右肩下がりになってしまっているのは仕方のないことで、少しでも右肩上がりになる可能性はインバウンドにしか残っていません。弊社はパチンコ業界の方々からも「最後の希望」なんて言っていただくこともありますが、本当にそうだと自覚しています。

    ――プレイヤーが増えないことには、擦り減っていくばかりですものね。これからのご活躍を楽しみにしています! 本日はありがとうございました!

     

    長北さんの登場で、パチンコ業界のインバウンド対策はやっと本格的に動き出した感があります。パチンコ・パチスロという日本のカルチャーが世界中に広がる未来も訪れるかもしれません。これからの動向が楽しみです!

    P-Summa編集部

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